治療開始の1週間前に、治療の流れや受け方、更衣室の使い方等について一通りの説明があった。
医師は、治療室で使う機械の写真をパソコンの画面で見せてくれた。
「この機械を使って放射線を照射します」 という具合にだ。
ところで、この時背景に写っていたのは、気球だった。
青い空にぽっかりと浮かぶ大きな気球。
実は、当日の朝、エジプトで起きた気球墜落事故をニュースで見たばかりだった。
このタイミングでデスクトップ画面が気球とは!
あの事故がなければ何とも思わなかっただろうけど、
患者の心理状態を考慮してほしいと個人的に思った。
放射線治療室は、かなり広い部屋だった。
しかも、ドアのないオープンスペース。
いや、実際ドアはあるのだが、患者が治療を受けているベッドからは見えない間取りになっていた。
いつも薄暗がりの中を歩いてベッドに向かう。
ところが、ある時、その日に限って部屋の中がとても明るかったのだ。
そして、私は見た。
治療室の大きな壁は、あの巨大な気球の壁画になっていた。
パソコンのデスクトップ画面ではなくて、実際の壁面の画像だったのだ。
ああ、そういうことだったのか。
でも、この気球の壁画を見たのは後にも先にもこの時だけである。
治療前は薄暗い所を通り、治療後は照明が点いて明るくなるが、その時は壁を背にして出口へと向かうのでわざわざ振り返って壁を見る動作は不自然だと思われるだろう。
20回も通ったのに、結局あまり観察しなかったなあ。
治療が済んだら早く退散したかったので仕方あるまい。
以前に、何かの検診で、検診が終わってからベッドの上で機械を眺めていたら、検査技師の人が「どうかされましたか?」 と不思議そうに尋ねられた。
「ランプの形が面白いですね」 とか言って返事をしたけど、変な患者だと思われたかもしれない。
今でも、気球の壁画は謎だ。
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